自然災害からの復興には、感情に対応することも含まれます
アメリカのハリケーンや東南アジアの洪水(例:インドのムンバイの洪水で、1200名以上が亡くなったニュース)など、世界で自然災害のニュースが続いています。
私の故郷の日本では、2011年の東北地方太平洋沖地震が、地域に多大な被害を及ぼし、今でもその影響が続いています。その後も、平成28年熊本地震、平成27年9月関東・東北豪雨、九州北部豪雨、秋田県豪雨など、自然災害が起こっています。私が今住んでいるオーストラリアでは、去年のサイクロン・デビーがもたらしたような被害を繰り返さないように、次のサイクロンの季節に向けて準備をしています。
世界のどこでこのような災害が起こっても、ビルや家屋、橋や道路の倒壊、さらに、けが人や死亡者などの物理的な被害以外に、目を向けることが重要な事柄があります。自然災害は、心理的にも私たちに影響を与えますが、災害の子どもたちへの影響を、私たち大人が見過ごしてしまうこともあります。
「言われなくても分かること」の外に目を向けてみましょう
自然災害が起こると、大人も子どもも、恐怖や悲しみ、不安、怒りなど、辛い感情を経験します。大嵐、洪水、火事などで、小さな子どもが怯えることは、誰でも理解できると思います。でも、日本の研究でも示されているように、以下のような影響が続くこともあるのです:
- 家族や親戚の一員や友達、地域の人々がけがをしたり、亡くなったりした悲しみ
- 幼稚園や学校が休園・休校になり、お友達と会えず、寂しい思いをする
- 引っ越しをすることになり、新しい街での生活に対する不安
- また何か悪いことが起こるのではないかという恐怖感
特に、子どもが以前トラウマとなるような経験をしている場合は、このような災害の影響で子どもの行動が悪化することもあります。例えば、2011年の東北地方太平洋沖地震で被害にあった子どもたちで、特にそれ以前にトラウマとなるような経験をした子どもは、行動が悪化する傾向が強かったという研究があります。この論文では、他の自然災害の後にも、同じような傾向が見られた研究も参照しています。
周りの人々の反応に傷つくことも
人は、自分が理解できないことに、恐怖や怒りの反応を示すこともあります。2011年の地震の後に、他の街に移住した家庭の子どもが、原発からの放射能についての恐怖と誤解が理由で、いじめにあった悲しいニュースは、多くの日本の皆さんも覚えていらっしゃるでしょう。アメリカのハリケーン・カトリーナの後に引っ越しを余儀なくされた家庭も、差別やいじめを受けました。
よいニュースもあります
今では、自然災害の心理的な影響について、理解が向上しています。また、災害から立ち直るための準備や、立ち直るために必要な精神的な強さを人々が持てるように、被災地域を支援することの重要性に対する理解が向上しています。
子どもの心理的な、または行動の問題が予期せず起こり、どう対応すればよいのか悩み、そして自分自身も大変な思いをしている親を支援することを、行政や学校が検討しています。
親にできることは何でしょう?
辛い気持ちや不安な気持ちを経験することは、誰にとっても大変なことです。特に、子どもが辛い思いをしているときは、親もそれを見るのが辛いでしょう。そこで、子どもを辛い感情から遠ざけようとして、災害について全く話さなかったり、子どもがどのように感じているのか、話し合わないようにする人もいます。いつも楽しく感じたり、楽しいことをしたりすることにフォーカスする人もいます。
災害から立ち直ろうとしている最中でも、このように子どもに楽しみをもたらすことは、確かにとても重要です。これからの生活に希望を持ったり、前向きに感じたりすることを助けるからです。でも、辛い感情を経験したり、その感情を受け入れる方法を身につけることも、健全なメンタルヘルスには重要なのです。
自然災害から立ち直ろうとしている状況に限ったことではありませんが、子どもが不安や悲しみを感じているように見受けられたら、辛い感情を持つことがよくないことであると、子どもに思わせてしまうような対応は避け、まずは子どもの話を聞いて、子どもの感じている感情を受け止めてあげましょう。
無理に子どもに話をさせる必要はありません。子どものペースで、話せることを話したいだけ話せばよいのです。親も同じように不安や悲しみ感じていることもあるでしょう。そんな時は、自分も同じように感じていることを共有するのもよいでしょう。辛い状況では辛い感情を感じていてもいいのだということ、また、辛いと感じているのは自分だけではない、ということを子どもが学ぶのを助けます。
親にも子どもにも、普段以上のサポートが必要なことも
同時に、もし親が心理的に圧倒されて、物事に対応することが難しいと感じていたり、精神的な辛さに押しつぶされそうに感じている時は、その感情を子どもと共有するのではなく、自分のために専門家の支援を受けるほうが効果的です。そして、自分が心理的に立ち直ってきたら、自分がどのように困難や辛い感情に対応する方法を身につけたかを、子どもに示すことができます。
困った時に助けを得ることは健全なことですが、「わがままを言っているようで申し訳ない」「自分よりも大変な思いをしている人もいるのだから、自分で何とかしよう」と思う方もいらっしゃるでしょう。ですが、自分が大きなストレスを抱えているときに、家庭の世話をすることは容易ではありません。
親が不安な気持ちを抱えていると、子どもも親の不安を感じ取り、子どもも不安やストレスを感じてしまうことがあります。支援を得ることで、少しでもストレスが減るのであれば、それは家族が前進する前向きな一歩になるでしょう。
もし、子どもが災害のことや、自分の悲しみや不安をいつも話している場合は、子どももさらに支援を必要としているサインかもしれません。
みんなで協力して、なるべく早く習慣を立て直しましょう
災害が起こると、家族みんなが辛い気持ちを抱えますが、それと同時に、それぞれが異なる見方を持っていることも理解しましょう。そうすることで、家族がチームとなって立ち直ることに役立ちます。
災害が起こると、普段の生活習慣が大きく崩れることもあります。今までの習慣が急になくなると、家庭全体に不安やストレスが起こりがちです。今までと全く同じ習慣を取り戻すことは難しいかもしれませんが、子どもにとって予測しやすい日々の習慣を作るのは、子どもの気持ちを安定させ、将来の生活に安心感と自信を持つことに役立ちます。